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東京家庭裁判所 昭和62年(家イ)2255号 審判 1987年5月19日

申立人 テツエンリレナダカ

上記法定代理人親権者母 マリアエンリレ

相手方 名高伸郎

主文

申立人が相手方の子であることを認知する。

理由

1  申立人は主文同旨の調停・審判を求めた。

2  一件記録並びに申立人法定代理人親権者及び相手方に対する審問結果によると、次の事実が認められる。

(1)  マリア・エンリレは、1954年(昭和29年)2月10日フイリピンで出生し、以後同国で生育してきた。相手方は、昭和14年5月8日我国で出生し、以後我国で生育してきたものであるが、昭和54年1月にフイリピン旅行をした際にマリア・エンリレと知り合い、交際を始めた。

(2)  相手方は、昭和54年から昭和58年までの間、1年に2、3回程度フイリピンを訪れ、マリア・エンリレと性関係をもつ等していた。同女は、昭和56年10月ころに妊娠し、昭和57年5月4日に申立人を出産した。同女が申立人を妊娠した当時相手方はフイリピンを訪れ同女と関係をもつている。他方、同女は相手方との交際を始めた以降、他の男性とは交際をしていない。

(3)  マリア・エンリレは昭和58年11月に来日し、同年12月6日相手方と婚姻し、以後相手方とその肩書住所地に居住している。申立人は、その後来日し、現在では相手方及びマリア・エンリレと同居し、その扶養を受けている。

(4)  相手方及びマリア・エンリレの双方は、申立人が相手方の子であるとして、相手方が申立人を認知することを望んでいる。また、以上の事実関係については当事者間に争いがない。

3  以上の事実を前提に本件申立の当否につき検討する。

(1)  本件においては、相手方の住所が我国に存するので、我国に国際裁判管轄権がある。また、我国においては当庁に管轄がある。

(2)  法例18条によると、認知に関する準拠法は、父たる相手方については我国法、子たる申立人についてはフイリピン法となる。そこで検討するに、我国法によれば本件について審判により認知を認めることに支障はない。他方、フイリピン民法によると、任意認知が認められている(同法276条以下)が、未成年の子については、認知が出生登録又は遺言でなされないときは、裁判所の許可を要すると定めている(同法281条)。

本件においては、相手方は出生登録又は遺言によつて申立人を認知した訳ではなく、当裁判所において申立人を認知する旨の希望を述べているにすぎないため、認知が有効に成立するためには、裁判所の許可が必要となる。この点につき、我国には裁判所が認知を許可するという制度はないが、その趣旨からすると、我国の家庭裁判所による審判をもつて、フイリピン法上の許可に当てることが許されると考えられる。しかして、本件認知はフイリピン法上相当なものと認められ、これを許可すべきであると考えられる。

(3)  以上のとおり、本件においては、日本法及びフイリピン法の双方からみて、認知は正当であり、これを認めるべきである。よつて、家事調停委員の意見を聴いた上、家事審判法23条に基き、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山名学)

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